認知のゆがみ レッテル貼り

「レッテル貼り」とは、その人の行動や特徴を元に全体を一つの固定したイメージや言葉で評価し、そのレッテルに基づいてその人を見ることです。

例えば、一度の失敗しただけで「彼は無能だ」と決めつけてしまうことがレッテル貼りの典型的な例です。このような考え方は、その人の一部の行動や特徴を誇張し、その人全体を一面的に見ることで、その人の全体像を正しく認識することを妨げてしまいます。

レッテル貼りの事例

職場での例

ある職場で、新入社員の田中さんが初めてのプレゼンテーションで緊張してうまく話せなかったとします。その様子を見た上司が「田中さんはプレゼンが苦手だ」というレッテルを貼ってしまうと、田中さんはその後もプレゼンを任される機会が減り、成長のチャンスを失う可能性があります。上司が田中さんに対してこのような固定観念を持ち続けることで、田中さんは「自分はプレゼンが下手だ」と自己評価を下げ、ますます自信を喪失するかもしれません。

学校での例

学校でもレッテル貼りはよく見られます。例えば、ある生徒が一度テストで悪い点数を取ったときに教師や他の生徒が「彼は成績が悪い」と判断し、それ以降その生徒に対する期待値を下げてしまうケースです。このようなレッテルを貼られた生徒は、自分が頑張っても認めてもらえないと感じ、学習意欲を失うことがあります。その結果、実際に成績が悪化し、そのレッテルが自己成就予言のように現実化してしまうのです。

家庭での例

家庭内でもレッテル貼りは発生します。例えば、兄弟姉妹の中で「この子はいたずらっ子だ」というラベルを親が貼ると、その子供は何をしてもそのレッテルの枠内で見られるようになります。良い行動をしても「たまたま運が良かっただけ」と見なされ、悪い行動をすると「やっぱりいたずらっ子だから」と決めつけられてしまいます。こうして、その子供は親からの期待に応えるために、ますますいたずらをするようになるかもしれません。

レッテル貼りのネガティブな影響

1960年代、アメリカの社会学者であるハワード・ベッカーは著書の中で「ラベリング理論」を提唱しています。ラベリング理論では、人はレッテル貼り(ラベリング)をされると、レッテル通りの選択をし、その通りの人間になってしまう傾向があると論じられています。

例えば、犯罪や非行など、社会の側が特定の行動を逸脱行為とみなし、それらの行為を行う人を「逸脱者」と認めるとますます素行が悪くなるというのです。

レッテル貼りは、人間関係や自己評価にさまざまなネガティブな影響を及ぼします。

自己成就予言の罠

レッテル貼りの最も大きな問題の一つは、自己成就予言の形でその人の行動や自己評価に影響を与えることです。先ほどの田中さんの例では、上司が「田中さんはプレゼンが苦手だ」と決めつけることで、田中さん自身もそのレッテルを内面化し、実際にプレゼンが苦手になってしまうことがあります。このように、一度貼られたレッテルは、その人の行動や自己認識に深刻な影響を及ぼし、最終的にはそのレッテルを現実のものとしてしまうのです。

人間関係の悪化

レッテル貼りは、他人との関係性を歪める原因にもなります。レッテルを貼られた人は、そのラベルに基づいて評価されるため、本来の自分を理解してもらえないと感じることがあります。例えば、職場で「無能」とレッテルを貼られた人は、同僚や上司からの信頼を得ることが難しくなり、人間関係がぎくしゃくするかもしれません。このような状況は、職場の雰囲気を悪化させるだけでなく、個人のメンタルヘルスにも悪影響を与える可能性があります。

自己成長の阻害

レッテル貼りは、個人の成長を阻害する大きな要因となります。レッテルを貼られた人は、そのラベルに縛られて新しい挑戦や自己改善の機会を逃すことが多いです。例えば、「怠け者」とレッテルを貼られた学生は、努力してもその努力が認められないため、結局は本当に怠けるようになってしまうかもしれません。このように、レッテル貼りはその人の潜在能力を封じ込め、成長の機会を奪ってしまうのです。

ステレオタイプの強化

レッテル貼りは、個人に対する固定観念やステレオタイプを強化する作用があります。例えば、ある民族や国籍の人々に対して特定のステレオタイプが存在する場合、そのステレオタイプに基づいてレッテルを貼ることで、その集団全体に対する偏見や差別が助長されます。これは、社会全体の分断や不平等を生む原因となり、個々人が公正に評価される機会を奪うことにもなります。

レッテル貼りを防ぐための対策

自分が周囲の人に貼っているレッテルに気づく

マイナスなレッテル貼りは日々無意識に行っていることが多いので、まずは「マイナスなレッテル貼りをしていないか」と意識することから始めてみます。ネガティブな気持ちが起こるときは、マイナスなレッテル貼りが生じやすくなるなど気付くこともあります。

例えば、同僚が挨拶を返してくれなかったとき。つい「なんて冷たい人なんだ」「私は嫌われている」等と思ってしまうかもしれませんが、一度立ち止まって「たまたま気づかれなかっただけかもしれない」と考えてみると、自分が「あの同僚は冷たい人だ」「嫌われている」というレッテルを貼りそうになっていたことに気づくかも。そんな場面を多く持つようにします。

観察の精度を高める

人を評価する際には、一度の行動や一部の特徴だけでなく、全体像を見て判断することが重要です。例えば、田中さんのプレゼンがうまくいかなかった場合でも、その原因を探り、彼が他の場面でどのように行動しているかを観察することで、公平な評価をすることができます。

つまり、多面的にみるような癖をつけましょう。

フィードバックを工夫する

レッテル貼りを避けるためには、フィードバックの方法を工夫することも大切です。具体的な行動や成果に基づいてフィードバックを行い、個人の成長を促すようにしましょう。例えば、「この部分は良かったが、次回はここを改善するともっと良くなる」という具体的なアドバイスを提供することで、建設的なフィードバックが可能になります。

自己認識を高める

レッテルを貼られる側も、自分自身についての正しい認識を持つことが重要です。他人からの評価に過度に影響されず、自分の強みや改善点を客観的に把握することで、レッテルに縛られずに行動することができます。

多様性を尊重する

社会全体で多様性を尊重し、個々の違いを認め合う文化を育むことも、レッテル貼りを防ぐための重要なステップです。異なる背景や価値観を持つ人々と交流することで、固定観念やステレオタイプから解放され、公平な視点で人を評価することができるようになります。

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